2000.1.20
内閣官房内閣内政審議室 個人情報保護検討部会 御中
医療情報の公開・開示を求める市民の会
世話人 新美 千鶴
中間報告に対する意見
去る11月19日に発表された「我が国における個人情報保護システムの在り方について(中間報告)」(以下、中間報告)に対し、次の通り意見を述べます。
<意見>
1、 個人情報保護システム構築のための基礎であり、最重要ポイントは、本人開示請求権(=知る権利)を社会的に保障することです。この権利の保障なくして、個人の尊厳の尊重、個人の人格の尊重はあり得ません。中間報告が、個人情報保護の目的に「人権の尊重」を掲げる以上、何よりも先ず第一に、市民の「知る権利」を保障するという社会的規範を打ち立てなければなりません。
2、 そのために、最優先で行うべきことは、極めて不十分な現行の「行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律」を早急に改正し、行政部門の個人情報に関しては、どのような形態で管理されているかを問わずに、その保護と本人開示請求権、削除・訂正権を認めたものにすべきです。
3、 また、本人開示請求権、削除・訂正権を、市民が正当に行使するためには、国・自治体がどのような個人情報を持っているかを情報公開することが必要不可欠です。
<理由>
私の意見には具体的な根拠があります。医療情報を具体例として、その根拠を以下に述べます。
私は、日本初の医療費返還訴訟の原告です。医療費詐欺(架空請求)を行った開業医を訴えた裁判ですが、この提訴を可能ならしめたものは「本人開示されたレセプト」です。そして「日本初」の背景には、1961年に国民皆保険体制がスタートして以来、1997年までの36年間に渡って、厚生省が「レセプトは本人に見せてはならない」という何ら法的根拠のない行政指導を強行し、医療消費者である市民の「知る権利」を奪い続けて来た、という事実があります。
架空請求をするためには、先ずレセプトの傷病名欄に「架空病名」を書き込む必要が生じます。即ち、医者が個人情報を「ねつ造」するのです。これは明らかな『人権侵害』です。しかし、本人が自己情報を知る権利を封じ込めておけば、誰一人として、自分の人権が侵害されているという事実すら知り得ないのです。これは大変恐ろしいことです。さらに、もし、架空請求が発覚してしまった、あるいは発覚しそうであれば、今度は診療記録(カルテ)を「ねつ造」し、架空の病気を本当らしく書き込めば良いのです。本人開示請求権を奪い取っておけば、医者の完全犯罪は常に可能です。
私は、この国で最も「公然と」人権侵害を行う場が医療界であると言っても過言ではないと思います。大多数の国民がこの現実を何も知らない(知らされていない)のをいいことに、この国では、医者は個人情報を「操作」する権利を欲しいままにし、患者は無権利状態で放置される、という不正義がまかり通っています。何故この様な「不正義」がまかり通るのでしょうか。それは、この国には、市民の「知る権利」即ち、個人情報の本人開示請求権、削除・訂正権を保障するという「社会規範」が存在しないからです。一刻も早く現行の個人情報保護法の改正を実行し、先ず行政部門の持つ個人情報に関して、率先してこの規範を示さない限り、個人情報の本人開示請求権は、情報公開法からも個人情報保護法からも抜け落ち、市民の人権がますます踏みにじられるのは必至です。その結果、出来る法律は「個人情報保護法」ならぬ「個人情報操作保護法」でしかありません。
参考資料として、私が東京地裁の法廷で行った意見陳述の全文を添付しました。
なお、裁判は昨年2月25日、東京地裁にて判決が言い渡され、裁判所は「被告のした行為は歴とした犯罪行為であり、医療に対する信頼を揺るがす、あってはならない行為である」と断じました。そして約1万円の被害額に加えて、慰藉料30万円、弁護士費用10万円を支払うよう被告に賠償を命じました。その後、被告が控訴し現在は東京高等裁判所で係争中です。春頃には高裁の判断が注目されるでしょう。
以 上