文部科学大臣への要望書
2001年8月8日
<文部科学行政全般に関して>
(1)日本の教育に関する問題の最高の責任を担う文部科学省として、薬害が同じ構造で漫然と繰り返されてきた責任の一端を感じるか否か。その理由と共に回答されたい。
(2)文部科学省が薬害を繰り返さないためにできることは何か。文部科学省の権限内で考えられうる全ての方策について示されたい。
(3)これまでの交渉の経過から、そもそも文部科学省の薬害問題についての認識が不十分であることが明らかになった。文部科学大臣自身が直接、薬害被害者の代表と対談される機会を作られることを強く要望する。
<公教育(小・中・高)に関して>
(1)公教育で薬害が繰り返されないために必要な教育がなされるよう、学習指導要領を適切に書き改められたい。
(2)教科用図書検定調査審議会委員や教科書調査官に、薬害被害者団体の代表を採用されたい。
<高等(専門)教育に関して>
(1)医療従事者のための高等教育においては、薬害を薬理学などの医学的な観点だけでなく、医療倫理学や社会学および人権学習的な観点から学ぶ必要があると考える。早急に、国立大学のカリキュラム等を、適切なものに変更されたい。また、高等教育において、薬害被害者の声を直接聞く授業を実施していくことが必要だと考える。早急に、そのような取り組みを始められたい。
(2)国立大学付属病院で、薬害被害者や医療被害者の声を直接聞く職員研修を実施されたい。
<生涯学習に関して>
(1)各自治体に対して、消費者教育・人権学習などにおいて、薬害問題なども忘れずに取り上げることと、その際には、当事者である被害者の声を大切にした講座・シンポジウムを積極的に開催するよう通達せよ。
<その他に関して>
(1)国立大学付属病院におけるカルテ開示に関するガイドラインや通達の内容を明らかにされたい。また、遺族へのカルテ開示を全面的に実施されたい。
(2)国立大学付属病院において、患者が自己負担分を支払う際に、投薬された薬剤の正式名や単価がわかる明細を記した請求書(または領収書)を発行されたい。
以 上
なお、ご参考までに、これまでの交渉の経過をまとめたものを別紙として添付します。
(別紙) これまでの交渉内容のまとめ
2001年8月8日
私ども、全国薬害被害者団体連絡協議会と文部科学省(または文部省)との交渉は、一昨年、昨年に続き3回目になります。
今回の要望および質問に至る経過を改めてご理解いただくために、その概略を以下に列挙しますので、ご参考にしていただければ幸いです。
なお、第一回目の交渉内容をまとめた書籍「薬害が消される〜教科書に載らない6つの真実〜(さいろ社)」が発行されておりますので、併せてご参考にしていただければ幸いです。
<公教育(小・中・高)に関して>
●第1回交渉での私たちの要望
公教育(小学校、中学校、高等学校)の場で、薬害問題についての学習がなされるよう、学習指導要領等に明記すること。
○第1回交渉での文部省の回答要旨
医薬品に対する指導については、平成元年高等学校保健で「医薬品の有効性と副作用について」「薬の正しい使い方」等で指導している。また、薬物乱用の問題についても積極的に指導している。
●第2回交渉の質問および要望事項
(1)前回の私たちと文部省の交渉の中で、文部官僚が薬物乱用と薬害を混同しているかのような嘆かわしい実態があった。そもそも文部官僚自体が薬害を理解できていないのではないか。薬に副作用があることの教育は薬害の教育ではない。まして、薬物乱用と薬害も関係ない。薬害の歴史について文部省はどのように把握し、薬害の原因をどのように認識し、薬害を繰り返さないためにどのような教育が必要だと考えているのか明らかにされたい。
(2)私たちの調査ではサリドマイド・スモンの薬害発生以降、教科書における薬害の記述は年々減少し、特に昭和62年以降ほとんどなくなってしまっている。その結果、その後も悲惨な薬害が繰り返された。過去から現在までの、社会科や保健、家庭科などの教科書の中で、薬害についてどのように記載されてきたかを調べ全て明らかにされたい。また、この間、教科書検定で薬害の記述に対し検定意見を付けた事例を全て調査し明らかにされたい。
(3)教科書にはなぜ薬害が引き起こされたのか、の記載が必要である。被害を繰り返さないためには、なぜ起こったのかの原因を知り、検討することが大切であるのは当然だと考えるが、そのことに触れている教科書は皆無である。この点に関する文部省の見解を明らかにされたい。
(4)前回の交渉では、薬害を公害に含むかどうかで曖昧な回答が続いたが、文部省の正式な見解として、薬害は公害に含まれるのかどうか明らかにされたい。その際、文部省が考える「薬害」と「公害」の定義も明らかにされたい。
(5)社会科で、薬害の歴史がきちんと記載されていない。公害と併記する形ではなく、薬害の項目を独立させて学ばせるべきである。つまり、公害についての記載と同様に、薬害についても教科書に記載すべきだと考えるが、文部省の見解を明らかに示されたい。
(6)昨年8月24日に、厚生省前に、国が薬害を繰り返さないことを誓った「誓いの碑」が建立された。この誓いの碑の写真と共に、誓いの碑建立までの経緯やその意義について教科書に掲載すべきと考えるが、文部省の見解を示されたい。
(7)昨年の小学校教科書の薬害エイズの記載に検定意見をつけた理由について、経緯も含めて明らかにされたい。その結果、薬害エイズの記載が削除されたが、この結果は文部省の検定意見の主旨と合致しているのか否かの見解を、理由も含めて明らかにされたい。
(8)保健や家庭科の授業で出産について学習する際には、日本の最近の曜日別・時間別出生数のグラフ等(火曜日の出生数は日曜日の約1.5倍、午後2時頃の出生数は深夜の出生数の約2.5倍になっている事実は、最近15年間の厚生省人口動態統計で共通している)が日本の出産の実態をよく表しており重要である。しかし、この事実が全く教科書には掲載されておらず、有効な出産に関する教育がなされていない。これらのグラフを至急掲載すべきだと考えるが、文部省の見解を示されたい。
(9)薬害を防止するために国民に対して医療消費者としての消費者教育を公教育の場でもっと行い、将来消費者になる子どもたちにきちんと情報を伝えて行くと共に、自ら情報を入手し判断していく力を育成していく必要がある。しかし、この点に関して現行の教科書の記載は甚だ不十分であると考えるが、この点に関する記載例があればすべて示されたい。また、この問題に関する文部省の見解を示されたい。
○第2回交渉での文部省の回答要旨
(1)薬物乱用と薬害を混同したような発言を反省している。患者さんたちは、ここの薬の飲み方とか用い方に無関係に起きたもので、社会的なものに起因すると考えている。
(2)十分な時間を与えていただけない中で調べた結果、中学校社会科7社のうち4社。保健体育3社中3社。高等学校公民の現代社会17件中15件。保健体育8件中7件。家庭一般13件中3件に薬害問題に関する記述が見られた。
(3)学習指導要領に要求されているものは別にどういう取り上げ方をせよとは書いていない。一義的に著者に任されている。薬害が引き起こされた経過とか原因であるとか、そういったことを選択するのは著者の判断に任されている。
(4)公害については、環境基本法に定められているものを選んでいる。また、一般的に企業活動によって地域住民が被る環境災害のようなこともあります。また、薬害については、法律上、明確に明記されたものはない。一般的に見ると、薬品による被害とか、薬物による公害とか、基本的にはこの両者についての違いがあると思う。「薬害」と「公害」を定義すべきだと言うことだが、教科書というものは、粗銅要領に基づいて著作されるので、指導要領は薄い大綱的なもので、それを数十頁の教科書に編集していくうえでどういうものをとりあげて、どういう記述をするかは、一義的に著者の判断に任してある、ということである。
(5)前に申し上げたとおりである。
(6)先ほどと同じである。
(7)具体的に、学習指導要領で要求されていることではない。出版社と著者に任せている。
(8)上に同じ。
(9)保健体育の授業の中で、具体的には、医薬品の有効性と医薬品の副作用についての記述については、消費者教育といった中で、今後のそういった方向性に対して、単なる知識の詰め込みでなく、正しい医薬品の使い方、医薬品と健康というテーマで、別の教科書では医薬品による健康被害の防止というふうなことで記述している。
<高等(専門)教育に関して>
●第1回交渉での私たちの要望
高等教育においては、とくに医学、薬学、看護学等、医療専門職を養成する学校での教育カリキュラムの中に、薬害問題に関する内容を盛り込むこと。
○第1回交渉での文部省の回答要旨
最近は、全国で6つの大学が臨床薬理学の講座を開講し、その中で薬の適切な使用について指導している。その他、薬理学の講座でも薬害を含めた教育を行っている。情報学として、看護婦を対象に薬理学、薬剤の管理などの教育を行っている。
●第2回交渉の質問および要望事項
(1)昨年秋に私たちが開いた薬害フォーラム(シンポジウム)に出席した薬剤師の感想に「薬害については、個々の薬害の名前を何となく聞いたことはあったが、薬害というものがどういうものかを初めて知った。」という感想があった。薬害を知らない薬剤師が育成されている事実に対する文部省の見解を明らかにされたい。
(2)国立の看護学校でも薬害の歴史について教えられていない。国立の学校から、まず薬害教育を実践すべきだと考えるが、文部省の見解を示されたい。
(3)医療従事者を育成する高等教育機関では、薬害の歴史について、原因から被害者の実状までを含めきちっと教育を受けた者だけを卒業させるような施策をとるべきだと考えるが、文部省の見解を明らかにされたい。
○第2回交渉での文部省の回答要旨
(1)医薬品についてその安全性を確保し、適切に使用することは、医療従事者、薬剤師も含んで欠くことのできない問題であり、その教育は重要であると考えている。
(2)国立の看護学校、大学の医学部の担当をしているが、薬の知識をはじめ、その効用、投与方法、管理、保管方法について指導、またその中で、薬の歴史、薬害作用などは薬理学の中で実施している。
(3)医学においては、薬理学の授業科目において生命の尊厳、医薬品の安全性、副作用、総合作用などを研究するように、現在、国立の7大学で実施。薬剤師を養成する薬学部では医薬品の安全性や医薬品情報学を、平成12年度までに薬学部を置く全ての国立大学に医療薬害専攻を設置し、薬剤師の養成をする。文部省としては、医療の養成のため、大学医学部、看護学校、薬剤師の養成につとめる。
<生涯学習に関して>
●第1回交渉での私たちの要望
生涯学習の場で薬害問題に関する学習が行われるよう、必要な環境整備の実施ないしは支援を行うこと。
○第1回交渉での文部省の回答要旨
青年を対象に薬物の乱用、エイズなどについて、公民館で講座を実施している。
●第2回交渉の質問および要望事項
(1)前回の私たちと文部省の交渉の中で、公教育に関する回答と同様、文部官僚が薬物乱用と薬害を混同しているかのような嘆かわしい実態があった。そもそも文部官僚自体が薬害を理解できていないのではないか。薬に副作用があることの教育は薬害の教育ではない。まして、薬物乱用と薬害も関係ない。薬害の歴史について文部省はどのように把握し、薬害の原因をどのように認識し、薬害を繰り返さないためにどのような教育が必要だと考えているのか明らかにされたい。
(2)エイズ予防対策が先行して、薬害を未然に防ぐような学習が施されていないと考える。至急未然防止に向けた取り組みを検討されたい。
(3)薬害を防止するために国民に対して医療消費者としての消費者教育を生涯学習として行い、適切に情報を伝えて行くと共に、国民自らが情報を入手し判断していく力を育成していく必要がある。生涯学習において、そのために必要な取り組みを講じるよう至急検討されたい。
○第2回交渉での文部省の回答要旨
生涯学習における社会教育について、地域の実情、ニーズ、自主的な学習の支援の役割、環境教育とか人権教育、消費者教育の課題がある中で環境を整備し、消費者教育は市長村教育委員会が社会施設を利用して講座、シンポジウムを実施。薬害防止の観点から、消費者センターの中に配置して、消費に関する情報提供をしていく必要があると考えている。
以 上